もう一度君に会えたなら
ある悲しき歴史の断片
 わたしはため息を吐いた。何でまたあの夢を見たのだろう。夢というものは深層心理が見させていると聞くが、わたしの深層心理は何を見させているというのだろう。

 ただ、懐かしい気はした。起きたとき、胸の奥がえぐられるような、言いようのない気持ちが湧き上がってきた。

 それにもう一つ。気になるのは大姫と義高という名前だ。何度もその名前が出てくるため、彼らのことを夢に見ているのだというのは分かる。その二人は何なのだろう。聞いたことがあるような、ないような感じだ。家を出る前にネットで調べておけばよかった。

 朝はバタバタしていたし、昨日は昨日で川本さんの大学のことを考えて頭がいっぱいだった。でも、彼が大学に行って、わたしも一年遅れになるが同じ大学に行ければつながりというものができるかのしれない。ただ、問題はお金だ。ドラマみたいに親が実は学費を貯めていましたなんて展開はまずないだろう。そう都合よく物事が運ぶわけがない。

「弁護士か」

 なぜ彼は弁護士になりたいのだろう。よく聞くのは、弱者の力になりたいということだ。お母さんに一度理由を聞いたことがあった。お母さんもそうだった。理由は日本は法治国家なのだから、感情論ではなく、法律で人の役に立ちたい、と言っていたのだ。


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