もう一度君に会えたなら
重なり合う思い出
 わたしは鎌倉の旅行案内を見て、ふっとため息を吐いた。彼と一緒に鎌倉旅行に行く話をしていたため、鎌倉という場所に興味がわいたのだ。

 約束を守ってくれれば、彼と一緒に旅行ができる。それは嬉しいはずなのに、どこか心は重い。
 何に重荷を感じているのか、わたし自身がよくわかっていなかった。

 親の説得?
 旅費のこと?
 彼が約束を忘れてしまうかもしれないこと?

 いくつもの候補をあげるがしっくりこない。
 なんかもっと根底にある何かに抵抗を覚えているのだ。

 榮子がわたしの顔を覗きこんだ。

「帰らないの?」
「帰る。ごめん」

 帰りのホームルームも終わり、いつの間にか教室はがらんとしていた。
 わたしは慌てて携帯を片づけると、帰り支度を整えた。
 教室の外に出たとき、榮子が口を開いた。

「ねえ、あの人の名前って川本義純って言うんだよね?」
「そうだけど? フルネームを教えたっけ?」

「わたしの近所の人が和泉高校に通っていて、川本さんのことを聞いたら知っていたんだ。名前もその人から聞いた。ものすごく成績がいいんだってね。入学以来、学年トップクラスの成績なんだって」
「そうなんだ」

 彼は成績が優秀なのではないかと予測はしていたが、それ以上だ。
 榮子の顔がふっと暗くなった。

「でも、大学に行かないとかいう噂があって、先生たちが行ったほうがいいと説得しているとか」

 わたしは今の気持ちを言葉にできず、頭をかいた。

「知ってたの?」
「一応ね」
「そっか。何で大学に行かないんだろうね。もったいない」

 わたしは返事に困った。
 すると榮子は両手を胸の位置まで持ってくると横に振った。
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