もう一度君に会えたなら
不自由ない生活と自由なき生活
 わたしはあくびをかみ殺した。

 何だったんだろう。あの夢は。

 起きてしばらくは状況が飲み込めず、夢だと判断できなかった。
 まるで自分で見てきたような鮮明なもの。

 わたしが出てきてはいたが、それをわたしと断言していいのかは分からなかった。今の日本とは違う。着物のようなものを着ていて、だが、着物といっても平安時代の十二単とは違っていた。もっと動きやすい気がした。

 鞄から日本史の資料集を取りだすと、後ろからぱらぱらとめくった。
 大正時代、明治時代は明らかに違うだろう。
 時代をもう少し遡ると、江戸時代のページにたどり着いた。首を傾げ、もう少し遡ると、安土桃山時代、室町時代に到達した。

 あえていうなら、こんな感じの着物だった気がする。
 このあたりは中学校のときも勉強の一環としてやったし、テレビなどでも題材にされやすいところでもある。

 わたしは再びあくびをかみ殺した。
 まあ、きっとそうしたテレビで見た記憶が残っていて、あんな夢を見たんだろう。
 どこかのお城のお姫様になっている夢を見たなど、あまりに馬鹿げていて人には言えない。

 わたしは再び資料集のページを遡る。そして、わたしの手は鎌倉時代で止まった。
 そういえば、この時代もそんな感じの着物を着ていたはずだ。
 桜の花やあの男性ほどではないが、この鎌倉時代もそうだった。
 うまく言えないけれど、どこかに引っかかりを感じる時代。

 わたしはそこまで考えて首を横に振った。
 時代というよりは鎌倉幕府を開いたというこの人に引っ掛かりを感じているといったほうが正しいだろう。
 わたしはそこに載っている、源頼朝の絵に視線を落とした。

 そのとき、わたしの机に影がかかった。榮子が不思議そうな顔をして、こちらを見ていた。

「休み時間まで勉強?」
「そうでもないんだけどね」

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