もう一度君に会えたなら
彼の隣にいた女の子
 榮子はわたしを見て苦笑いを浮かべた。彼女の手が伸びてきて、わたしの頬を掴んだ。
 痛みは感じるが、それくらいのことでこの顔のにやけを抑えることはできない。

「本当、幸せそうだね」
「まあね」

 わたしはできるだけ抑揚のない声で返事をしようとした。だが、そんなのは悪あがきに過ぎなかった。
 川本さんの彼女になって二週間が経過していた。
 彼と週に一度か二度会うくらいだが、メールは毎日している。
 もっと会いたい気持ちはあるが、わがままを言って彼を困らせたくはなかったのだ。

「じゃあ、邪魔者は帰るよ。楽しんできてね」
「ありがとう」
「来週の中間テストの勉強はきちんとしておくこと」
「分かってます」

 わたしは榮子に別れを告げ、ふっと天を仰いだ。
 今日はどんな話をしよう。
 一時間ほどなら一緒にいられると言っていたため、その時間を少しでも無駄にはしたくなかった。

 といっても特別な話などあるわけもなく、わたしたちの会話はほとんどが他愛のないことだ。
 友達とするような世間話。それでも、わたしの知らない川本さんの学校での姿が垣間見える気がして、とても嬉しかったのだ。

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