夢で会いたい
7 この阿呆と一生
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予想通りではあったけど、トモ君は賞を取れなかった。





発表当日、いつそれがわかるのか知らない私は、朝からそわそわしていた。
携帯や店のパソコンで何度確認しても情報は上がっていない。


「多分夜の7時くらいじゃないかな。だいたいいつもそのあたりだから」

後ろからディスプレイをのぞき込んできた店長が、私の肩越しに言った。

「・・・すみません。私用で使って」

「私用なの?てっきり平台交換するためのものだと思ってた」

「仕事です」


答えはどっちでもよかったようで、店長の思考はすでに仕事の方へと向かっていた。

「米田さんのことは応援してるけど、店としては違う作品が受賞した方がありがたいんだよね。軽く読める作品が受賞すると売り上げが伸びるから」

実際ヤツの本より売れている作品の方が、読書ファンの予想でも名前が上がっている。

店の仕入れでも多く入荷しているから、変に予想外の作品が受賞されて品薄になられると困る。

ちなみにサイトの予想で、ヤツの名前が上がっているのを見たことはない。

「米田さんにとってはノミネートされただけで十分効果はあると思うんだ。これで名前を覚えてもらえただろうし、売り上げだって何倍にもなってるはずだよ。今回は、まあ無理だろうね」

「そうですか」


本が売れているならいいことだ。
収入も将来性も不安定・不透明なのだから、稼げるときに稼いでおいてほしい。

そう思うのに、何かがもやもやして、不満なのはなぜだろう。



店の営業時間が終わって、閉店業務をこなしているときに店長から受賞作が決まったと知らされた。

店長の予想が当たって、彼は嬉々として平台に受賞作を並べている。
受賞してからでは注文しても入荷は難しくなるのだ。

ヤツの作品は元の『地元作家応援コーナー』に戻された。


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