私だけ意識してるのを白状したみたいで、また苦しくなる。俯き気味になったが、直人は気にする素振りもなく私の髪に指を通して弄っている。

 こうなったら、もうされるがままだ。今更、取り繕ったところで彼に私の恋愛経験の浅さなんて、とっくに知られているわけだし。

 さっきの直人の“そういうの”とはどういう意味だろうか。やっぱり私が、同情で好きだと言うと思われたのか。どう言えば、どうすれば直人は納得してくれるんだろう。

「そ、それにしても、せっかくの婚姻届を破いちゃっていいの? 社長がわざわざサインまでしてくれたのに」

 結局、そのことには触れられず、わざとらしく問いかけると、直人は、ああ、と短く返事をした。

「心配しなくても、書き損じたとき用にって、まだ何枚も用意されてる」

 まさかの返答に私は唖然とした。そして、何枚も証人欄にせっせと署名する社長の姿を思い浮かべて、つい笑みがこぼれてしまう。

「それは、すごいね」

 そこで顔を上げると、直人も同意するように笑ってくれた。その表情に見惚れていると、急に彼は真剣な顔になった。

「じいさんの条件の話を黙っててごめん。でも、晶子にはちゃんと俺のことを好きになってもらいたい。それで俺と結婚して欲しいんだ」

 すごい口説き文句だ。これも全部、私があんな条件を出したからなんだけど。私はなにも答えることができずに直人を見つめた。今、私の気持ちを伝えても、きっと彼は信じてくれないだろう。

 直人は私の頬に触れると、確かめるようにして、ゆっくりと顔を近づけてきた。だからどうか、このキスを受け入れることで、直人に惹かれている気持ちは本物だということは伝わればいい。

 そう願いながら私は静かに瞼を閉じた。