次期社長と甘キュン!?お試し結婚
「晶子の言うとおりだよ。会社の跡を継ごうって人間が、婚約者の出した条件ひとつ叶えられないなんて話にならない」

 私は目を丸くした。そんなつもりで先ほどの発言をしたわけでは、もちろんない。

「そんなつもりじゃなかったの。それに、私とのことは他に誰も知らないし、気にしなくても」

「俺が気にするんだ」

 慌ててフォローするも、あっさりと一蹴される。そうだ、直人は変に融通が利かないというか、真面目というか。そもそも私がきちんと伝えていなかったのが悪いのだ。唇を噛みしめ、改めて意を決する。

「あの、私、ちゃんと直人のこと」

 好きだよ、と言葉にしようとしたところで私はフリーズしてしまった。何故なら、直人がそっと私の前髪を掻き上げたかと思うと、額に唇を寄せたからだ。

「なっ」

 おかげで言いたかったことも言えずに、慌てて額を押さえる。

「そういうのは、いらないんだ」

 真面目な顔で言ったかと思えば、今度こそ直人は、おかしそうに笑った。

「晶子は普通にキスするよりも、唇以外にした方がよっぽど反応がいいな」

 その言葉に頬が熱くなる。以前、頬にキスをされて分かったのだが、慣れていないからか、どうも私は唇にキスをされるのは意外と冷静に受け止められるのに、それ以外に口づけられるのは恥ずかしくて動揺してしまう。

 これが外国ならスキンシップや挨拶の一貫なのかもしれないが、生憎私は、日本生まれの日本育ちだ。

「だって、なんだか恋人同士みたい」

 ぽつりと言い訳みたいに呟いて、私はすぐに後悔した。直人は外国に長年いたわけだし、こんなのは、それこそ犬にするのと同じようなものだ。
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