モカマタリ 前編
「――――はい? 何でしょう。追加の注文ですか?」
内心の動揺を隠すように営業スマイルでそう答えると、彼はゆっくりと首を横に振った。
「注文ではありません。それよりは……苦情、と言った方がいいでしょうか」
「苦情?!」
お店の物にゴミでも入っていたのだろうか。たった今出前してきた、オムライスとコーヒーが乗ったテーブルに歩み寄り確認をする。
しかし何も見つからなかった。
カフェのマスターは元々几帳面な性格で、店の衛生にもかなり気を使っている。今までだってそんな苦情は、私が働き始めて三年、一度だって来たことがない。
とんだ言いがかりだ。
そう思って私の様子を黙って見ていた弁護士を見ると、彼は自信ありげに微笑んでいた。
「……特に問題は無いようですが、一体どのような苦情ですか?」
「これですよ」
彼がそう言って指差したのは、まだ湯気が立つコーヒーのカップだった。勿論、保温ポットに入れて待ってきて、ここでカップに注いだのだ。ゴミなんて絶対入ってない。