ダブルベッド・シンドローム
疑念




半月もすれば、私はすっかり仕事に慣れていた。

また、最初はぎこちなかった人間関係も、良い意味でも悪い意味でも、緊張感はなくなっていた。


「宮田さんさぁ、伝票の仕訳が間違ってるんだけど、ちゃんと自分で確認してみた?」

「え、あ、すみません。直します。」

「うん、もう半月経つから、伝票の仕訳は正確に出来ないと困るかな。そこはやっぱり、正社員だからさ。ペース上げていかないと。」

「はい。すみません。」


前原さんは、私に対して注意をするとき、やたらと「正社員」だということを言及するようになった。

そして、柔かい口調は変わらずとも、私のストレス耐性を、徐々に推し測るように、言葉の選び方は厳しくなっていった。

しかし、専務の婚約者フィルターが効いているのか、ギリギリのところで、それ以上にはならないのだ。


ここで働くことに対して、特にやりがいはなかった。

確約された時間の中で、決められた仕事をこなすだけであった。

しかし、テレビゲームをやるときのような、クリアしていく感覚はあるもので、そこに時間の条件をつけたり、自身のレベルを上げていくなどの付加をつけることで、仕事にRPGのような楽しさを見出だすことも、容易にできたはずだ。

しかし、仕事が終われば専務と帰り、一緒に時間を過ごすということ、それだけあれば、わざわざ仕事の中に楽しさを見出だす必要もなかった。

家に帰れば、専務との距離を縮めていくゲームをすることになるのだから、仕事の時間までゲームに仕立てることはないのである。


しかし、この会社に迷惑をかけるようなことがあれば、それは専務を困らせてしまうので、どうにか一定の向上心を保っていた。

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