新・鉢植右から3番目


 途端におこったブーイングは、勿論私の実母からのものだ。なんですってええええええ~!?っと大声を出して、片手でバンバン机をぶっ叩いている。

 うちの母の隣に座った夫の母である冴子母さんが、ちょっと唯ちゃん、落ち着いて、と声をかけるほどの勢いだったのだ。

 あ、ちなみにうちの実母とこの義理の母は高校生の時の友人同士なのだ。縁あって自分の息子と娘が結婚したので、友達から家族へと昇格した間柄だった。故に、やたらと仲がよく、私達が結婚して以来いつでもつるんでいる。

「どうしてかしら、都ちゃん。もしかして桜ちゃんにはもうお雛様を準備してあるの?」

 うちの母を片手で抑えたままで、冴子母さんがおっとりと聞いてくる。私はそんな予定はなかったけれども、すぐさま首を縦に振った。いやいや、それでは表現が生易しい。振りまくった。相槌人形のように。

「ええ、まあ、はい」

「ええっ!?勝手に買っちゃったの!?だってそれは私達からの孫への贈り物にしようと思ってたのに!どうして相談してくれないのよ!」

 そう母親が叫ぶ。うるせえな。私は眉をしかめて、奥の和室においてある娘のベビーベッドを指差した。赤ん坊が起きるでしょ、というジェスチャーだ。母はハッとしたように口元に手をあてて、もごもごと何やら呟いている。

 私は今年の春先に娘を産んだのだ。命名はうちの夫の大地で、病室から見えていた立派な夜桜を見てぼそっと呟いたのだった。桜、って。

 だから元友達で同級生で今は義理の家族となった母親たちは、二人でお互いの初孫である女の子に、お雛様をプレゼントしようと計画をたてていたらしかった。


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