テンポラリーラブ物語
第五章 ショッキング

 食事をした後、なゆみとジンジャは手を繋いで、ショッピングエリアや街の中を歩き回ってデートの続きを楽しんでいた。

 お互い口には出さなかったものの、心の隅に氷室のことがそれぞれ気にかかってどこか話が弾まない。

「歩いてばかりじゃちょっと疲れちまったな。どっか座ろうか」

 ジンジャがなゆみを気遣った覗き込みがちに見た瞳が、不安げだった。

 ビルとビルの間、木々も植えられて、オブジェなどがところどころにアートとして置かれている憩いの空間を歩いていた。

 そこに設置されていたベンチがちょうど空いており、ジンジャとなゆみは腰掛けた。

 夏の暑い日ざしは側に植えられた木で遮られて、木陰ができていた。

 くっきりと地面に落とした濃い影とやかましく鳴くセミが夏らしい。

 ハンカチでなゆみは額の汗をぬぐった。

 その隣でジンジャがベンチの背にもたれ空を見上げている。

 ギラギラとした太陽の光に目を細め、考え事をしているようだった。

「あーあ、もっと早くタフクとこうしていたかった」

「どうしたの急に?」

「ん? なんかさ、タフクがもうすぐ居なくなるの寂しいなって思っただけさ」

「ジンジャ、無理しなくていいんだよ。一年ってやっぱり長いしさ……」

「何言ってんだよ。俺は待つって言っただろ。俺を信用しろよ」

「ジンジャ……」

「なあ、初めて会ったときのこと覚えてるか」

「うん。もちろん」

「ラウンジで坂井がタフクのこと俺に紹介したんだっけ。あのとき、タフクは元気だったよな。俺の名前が伊勢っていうだけで、いきなり”ジンジャだ!”なんて言うんだから」

「そしてジンジャが、それを言うなら伊勢神宮の”ジングー”だろって突っ込んでくれたんだよね。それからすぐに仲良くなったんだっけ」

「そうそう、なんかノリがよくて、俺も赤福もち、お多福もちそしてタフクってとんとん拍子に名前つけちまった」

「そしてその日、クラスで私とジンジャがペアになってそのままのノリで積極的に発言したから授業も益々盛り上がっちゃったよね」

「ああ、あんな馬鹿騒ぎしたクラスなんて始めてだったし、タフクとも初めて会った気がしなかったから、どんどん調子に乗っちまった。それにタフクの笑顔がすごくかわいくてさ。釣られて俺も笑ったよ」

< 162 / 239 >

この作品をシェア

pagetop