別れたいのに愛おしい~冷徹御曹司の揺るぎない独占愛~
とりあえず、部屋の中心の小さなローテーブルの前に正座した。

時計を見ると、六時四十五分を過ぎたところだった。
会議室を出たのが六時過ぎだったから、奏人はまだ帰って来れないな。

一人きりの部屋はシンとしていて、気持ちも沈んで行くようだ。

この部屋で奏人を待つのは初めてじゃないけど、いつもは夕食を作ったり部屋を片付けたり、やる事が無い時は、テレビを見たりで手持ち無沙汰になる事なんて無かった。


でも今の私の立場で夕食を用意しておくなんて変だし、私自身やる気も出ない。

奏人の為に何かしたいって気持ちが無くなってしまっている。

以前なら、疲れて帰ってくる奏人に温かくて美味しいものを用意しておきたいって思ったのに。

やっぱり、どう考えても奏人とやり直すなんて出来そうにない。

あんな嘘つきに心を許せるはずがないんだから。

さっきは流されてしまったけど、今度こそはっきり言おう。

もう関わらないって。

奏人の話の具体的な内容は分からないけど、どうせ納得出来る内容な訳がない。

今直ぐ仕事の担当を変えるのが無理なら、明日にでも異動願いを出そう。そうすれば次の人事異動の時に奏人から離れられる可能性が有るし。

本当は転職出来たらいいんだけど、今と同等の条件の会社に転職するのはかなり難しいはずだ。

自分の生活と、実家への仕送りの事を考えると、転職は全く現実的じゃなかった。

あれこれ頭を悩ませていると、アパートの階段を駆け足で上る足音が聞こえて来た。

……奏人?

緊張しながら玄関の方に目を向ける。

足音は思った通り奏人で、アパートのドアが開くと、そこには少し息を切らした奏人が居た。
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