別れたいのに愛おしい~冷徹御曹司の揺るぎない独占愛~
「ごめん、遅くなって」

奏人はそう言うと、もどかしそうに靴を脱いだ。

私は立ち上がり、奏人を出迎える。

「お帰りなさい。そんなに待ってないから大丈夫」

そう答えると、奏人はホッとした様子で微笑んだ。

「良かった。理沙が待っていてくれているか心配だったんだ」

「待ってるよ。鍵だって預かったんだし。はい、これ返すね」

私は部屋の鍵を取り出して、奏人に差し出す。

「……ああ」

一瞬躊躇してから、奏人は鍵を受け取った。

「話をするんだよね?」

はっきりと別れを告げるつもりだけど、約束だから先に奏人の話を聞こうと思っている。

「ああ。でも理沙何も食べてないだろ? 先に食事でも行くか?」

「食べてないけど、お腹が空いてないから大丈夫」

こんな状況での奏人と、のんびり食事をする気分にはなれない。

それに早く話を聞いて帰りたい。

奏人はがっかりした様に肩を落としてから、壁際に有るベッドに腰掛けた。

「理沙も座って」

奏人は私に隣に座る様に促した。
でも、ベッドに座るのは躊躇ってしまう。

私は元々座っていたローテーブルの前に正座する。

奏人は眉を潜めたけど、文句を言って来る事はなく、小さな深呼吸をして話を始めた。
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