あの先輩が容疑者ですか? 新人ナース鈴の事件簿 

訪問看護ステーション りんご

 その週の土曜日の夕方である。

 研修中の鈴はほとんどの土日が休みなので、市内の友人と約束がなければ実家に帰ることも多かった。ようやく仮免許が取れたと父に報告すると、さっそく、「ぶつけてもいいぞ」と軽トラを貸してくれた。

 鈴の実家のある高見原村地区(旧高見原村)は、十年前の合併で最後に米田市に加わった数ヶ村のひとつで、はっきり言って、超弩級の田舎加減だ。何しろ、米田の市街地から高見原地区までは車で一時間四十分。合併から十年たっても、高見原の人たちは市街地へ買い物に行くことを「市内に行く」と言い、まるで米田市に合併したことを忘れているかのように振る舞っている。

「どーしよう……レッカー呼んでも、市内からめっちゃ時間かかるだろうし。お父さんお酒飲んでたし。誰か、大きい車持ってる人なんていたっけ……?」
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