ホテル王と偽りマリアージュ
センゲン
一晩二晩くらい帰ってこなくても、心配することはない。
そもそも一哉はウチのホテルのオーナーの息子なんだし、一週間でも二週間でも宿泊先に困る事態は考えられない。


そう思うけど、あんなやりとりの後、本当に顔も見なくなった。
こんな時に限って、一哉と一緒のお務めの予定もなく、急遽呼ばれることもない。


忙しいからとかじゃなく、私からの電話やメールはきっと無視してるんだろう。
何度連絡してもレスポンスがない。


そんな状態が四日も続くと、さすがに気になって仕事が手につかない。
一哉のご両親にもそれとなく聞いてみた。
二人とも全然変わった様子がなかったから、どうやら実家にも戻っていないらしい。
海外出張に出た形跡もなく、宿泊部で調べてもらったら、一哉はウチのホテルには宿泊していないらしい。


じゃあ、あれから彼はどこで過ごしているんだろう。
不安になって、結局最後は彼の二人の秘書に連絡した。
けれど『奥様からの連絡は取りつがないように、との仰せですので』と、ちょっと申し訳なさそうに、どこか好奇心を漂わせながら門前払いされてしまった。


なによ、それ!と憤慨して、オフィスの電話を叩き切った。
その後は怒りに任せて一哉への心配を吹き飛ばし、結婚前の極普通の私に戻ったような、平凡で味気ない日々を過ごした。
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