ホテル王と偽りマリアージュ
コクハク
朝一番で処理を終えて提出した経費支払の書類に、リテイクを受けた。


「かいと……じゃなかった、水沢さん、どうしたの。ここ、適用レート、間違ってるよ」


課長から呼ばれて書類を突き返され、そんなバカな、と首を傾げながら、言われた部分を確認する。


海外勤務の派遣社員から申請された、経費精算の支払伝票だった。
海外の経費精算は使用当日の換算レートではなく、その月ごとに設定された社内独自の仮想レートを使って精算するのが決まり。
よくよく見てみると……。


「あ、すみませんっ……!!」


ヨーロッパからの領収書だったから、当たり前にユーロのレートを入力していたけれど、領収書の通貨はイギリスポンドだ。
このまま支払ったらエラい違いになる。


「すぐ直します!!」


慌てて課長に頭を下げてから、自分のデスクに戻った。
隣の席の芙美が、チラリと私に視線を向けるのがわかる。


『どうしたの~』と唇の動きだけで言われて、私は小さく肩を竦めた。
そして、ついさっき閉じたファイルを開き、正しいレートを入力する。


悪夢のような週末を終え、週が明けて三日――。
私は自分でも信じられない凡ミスを繰り返していた。
ENTキーを押して完了させると共にドッと肩を落とし、大きな溜め息を放った。
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