ホテル王と偽りマリアージュ
ヤキモチ
十一月の、とある週末のお昼時。
私と一哉は並んでキッチンに立っていた。


「あ、いい匂い。このままでも美味しそうだね」


フライパンで玉ねぎのみじん切りとひき肉を炒めていた一哉が、ひょいっとスプーンの先で掬い上げて摘み食いした。


「あ、ダメ! ミートソースにするって言ったでしょ!」


ホールトマトの缶詰を開けながら、隣から目力を込めて軽く睨み上げる。
一哉はヒョコッと首を縮めた。


「でも、ほんと。このままでもいける」

「一哉の味覚って、庶民通り越して子供だよね~。せっかくお客さんなのに。パスタにしても、もうちょっと手の込んだの作れたのに」


そう言いながら、一哉の横からフライパンの中身を覗き込む。
全体に均等に火が通ってるのを目で確認して、私はそこに缶詰のトマトを投入した。


「いいんだよ。それにアイツの味覚も結構俺と大差ないし」


軽くトマトを潰して混ぜながら、一哉はコンロの前からリビングの客人に向かって、「なあ?」と声を張った。


「要(かなめ)! 要って昔からパスタの中じゃ、ミートソースが一番好きだったよな?」


『要』と呼ばれた男性が、ソファに腰掛けたままフッと顔を上げた。
自分に話を振られて、ニッコリ笑って穏やかに頷いている。
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