ホテル王と偽りマリアージュ
「ボロネーゼって言って欲しいとこだけど。大好きだから、椿さん、お構いなく。って、なんか悪かったな~、一哉。せっかくの休日、連絡もなしにお邪魔しちゃって」


長い足を組み替えながら、要さんがそう返事をする。
『別に』と返した一哉に、更に言葉を続けてきた。


「実際のところ、どんなもんかと思ったけど。まさか一緒にキッチンに立って料理する一哉を見れるとは。想像以上にラブラブなんだな、一哉と椿さん」


『いやいや本当にお邪魔だったなあ』なんてニヤニヤ笑いながら言われて、私の笑顔は一瞬ピクッと引き攣った。
それに引き換え、一哉はまあ余裕なものだ。


「なにをどう聞いたんだか知らないけど、新婚だしね。このくらいはいつものこと」


シレッとそう返事をして、フライパンの火加減を見るフリをしながらわずかに身を屈めた。
そこから私を見上げて苦笑している。


「ごめんね、椿」


小声でコソッと言われて、私はぎこちなく首を傾げて見せた。


要さんは皆藤家の親族の一人で、一哉にとっては父方の従兄弟に当たる人だ。
ヨーロッパ出張中で結婚式は欠席だったからと、帰国後、今日になってわざわざお祝いに訪ねてきてくれた。


――と言うのは建前で、一哉曰く『絶対なにか勘繰って偵察に来てるだけだから』。
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