ホテル王と偽りマリアージュ
「……賠償金代わりに結婚しろって言って、私の戸籍を汚したくせに……」


胸が大きく打ち鳴るのを無視しながら、私はそう言って一哉を罵った。
彼は背を向けたまま、小さく肩を竦める。


「ごめんね。でも俺も、社長になってアメリカに行かなきゃいけなかったからさ」


即座に返ってくる返事が、私と一哉の結婚があくまでも契約でしかないことを痛感させる。


「一年後には椿を綺麗なままで元に戻してあげるから。今はちょっと俺に付き合って」


そう言った一哉は、もう既に立派な椅子に背を預けて、デスクの上の書類を手に取っていた。


「待ってられる? もう少しで終わるから、一緒に帰ろう」


私を見ずに彼が続けた言葉に、私は黙って頷いた。


心は複雑だった。
普通だったら、一生を誓う約束が結婚のはずなのに、私と一哉は一年先の未来がない。
一哉は仕事の為、私は賠償金逃れの為の結婚だから、リミットがあるのがありがたいはずなのに。


「……私が心底惚れる男は、どこにいるんだろう……」


少なくとも、それが今の旦那様の一哉にはならない。
モヤモヤしながら呟いた一言を、私は自分で噛み締めていた。
< 40 / 233 >

この作品をシェア

pagetop