極上な彼の一途な独占欲
05. 妬いていませんので
ひそひそ。

翌日の開場前のブースでは、ところどころでささやきが交わされていた。

みんなの視線の先には、伊吹さんがいる。メインステージの端に腰を下ろし、その隣にはぺったりと寄り添う遥香の姿。

遥香はわかりやすくピンク色のオーラを放っているのに対し、伊吹さんはあくまでビジネスライクで、それでも親身に相談に乗ってやっているように見える。

長い脚を男の人らしく無頓着に開いて座り、腿に乗せた両手を組んでいる。たぶん周囲のざわめきには気がついていない。

今日、暢子は休み。遥香に注意をすべきかアドバイスが欲しかったのに。私は客観的になれない自信がある。

まあ遥香のことだ、仕事はきっちりこなすだろうし、現場の空気をこれ以上乱すこともしないだろう。それであれば注意する必要もない。

ない…んだけれど。




「天羽さん、ちょっといい?」


休憩から戻ったら、中山さんに手招きされた。ひそめた声から深刻な用件であるのが伝わってきて、緊張する。


「はい」

「つい今しがた、ガイドスタッフのひとりがね、機密の情報をお客様にしゃべっちゃって、問題になってるんだ」

「えっ…」


ブースの建屋の裏で、私は愕然とした。それはもう、もっともあってはならない事態だ。


「お客様が、説明員——伊吹さんの部署の方ね——に、そのことについてもっと聞こうと質問したのがきっけで発覚してね」

「申し訳ありません、もう一度、意識を徹底させます。あの、伊吹さんはこの件について、なんて…」

「今休憩中で、シーバーの圏外に行っちゃってるみたいで、繋がらないんだ。携帯で連絡を取ろうとしてるんだけど」


まだこの一件を知らないってことか。戻ってきたらすぐ謝罪しなきゃ…その前にスタッフへの注意だ。ショーの最中に、全員を一気に楽屋に戻すわけにはいかない。ひとりずつ裏へ呼ぶか…。

思い悩みながらブースの表側へ戻った。今日もひっきりなしにお客様が立ち寄り、車に乗ってみたりスタッフに話しかけたりしている。

ショーは7日目。油断や過信が出る頃だ。
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