祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「ならば、近いうちに、久々に舞踏会でも開催しましょう。季節的には少しズレますが。名目はそうですね、ヴェステン方伯の誕生日が近いはずです。あなたに一目会いたいというご令嬢たちの願いも叶えてあげましょう」

「正確には、娘を王家に嫁がせたいその血縁者どもの、だろ」

 てきぱきを事を決めていくエルマーにヴィルヘルムは毒々しく呟いた。ヴィルヘルムが王位についてからは、晩餐会や舞踏会と呼ばれるものはほとんど行われなくなっている。

 華々しい雰囲気の中、その裏では自分たちの権力を誇示しながら、互いに腹を探り合う。策略と思惑が巡り、自分に向けられる数多の視線。ヴィルヘルムにとっては不要以外のなにものでもないが、そういうわけにもいかない。

 そこで複雑そうにこちらを見ていたクルトと目が合った。

「なにか言いたそうだな」

「陛下、戯れや慰めならかまいません。ですが、あなたは一刻も早い世継ぎを持たなくはならないことを、くれぐれもご自分の立場をどうかお忘れのないように」

 いつもより慇懃無礼な口調で告げ、クルトは深く頭を下げると、先にその場を後にした。王はその後ろ姿を見つめてからゆっくりと視線を落とす。

 先ほど、リラと交わした口づけを思い出す。自分でも戯れ、と言った。でも今まで戯れのつもりであんなことをしたことはない。なら、どういうつもりだったのかと改めて自分に問いかけると明確な答えは出ない。

 ただ、魅せられていた。白い絹のような肌に、流れるような美しい銀の髪に、そしてあの唇に。アメジストのような紫の瞳が自分だけを映していることにひどく満足する。
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