祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「あ、そういう考え方になります? いえいえ、陛下は自分の信用した者以外があなたに触れるのが嫌なんですよー。いや、本当は自分以外が、かな」

「え?」

 おどけた言い方のエルマーに今度はリラが目を丸くする。

「それだけ、あなたのことがお気に入りだってことです。この前だって、歩く死者に同情して必死なのかと思えば、陛下のためにできることがあればなんでもする、なんて言われちゃ、そりゃ陛下も無下にはできませんよね」

「あ、あれは、その」

 改めて自分の発言を持ち出され、羞恥心で顔が熱くなる。そんなリラに対してエルマーは腕を組み、うんうんと、ひとりで納得している。

「ですが、その、陛下は最近、後宮やご令嬢の元に通われているとか……」

「あ、そうみたいですね。今回は随分と熱心で。いやぁ、こちらとしては有難いことです」

 歯切れ悪く切り出したリラに、エルマーはなんの躊躇いもなく肯定した。側近であるエルマーが言うのだから、間違いないのだろう。半信半疑な思いが事実と分かり、勝手に落ち込んでしまう気持ちをリラは必死で奮い立たせた。

「私は、陛下のお役に立てたらいいんです。こうして私が、ここにいられるのは陛下のおかげですから」

「陛下のせいで、とも言えますけどね」

 自分に言い聞かせるように告げたリラの言葉をエルマーは冷静に訂正した。そして急に真面目な顔になる。

「陛下のために、と言うなら、どうか無理はなさらないでくださいね。こんなに練習したのが歩く死者のためだけ、というのはなんとも勿体ない気もしますけれど」

 エルマーの言葉に、リラは苦々しく笑って頷いた。
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