あなたに捧げる不機嫌な口付け

でもね、祐里恵。

頬杖をつきながら、ぼーっとして休み時間をやり過ごす。


いつも通り学校に通いつつ、微妙に連絡が気になった。


「…………」


胸ポケットへ向かいかけた手を戻す。


いやいや。かけたくなったら電話でも何でも来るし、そんなに気にする必要はないんじゃないかな。


諏訪さんは移り気な人のようだから、今は、急に呼ばれてもいいように、課題とか予習とかを終わらせる方がいいだろう。


……ん? いやいや、律儀に会いに行かなくてもいいんじゃないかな。

うん、放置だな、これは。


私の知り合いは私があまり連絡を確認しないと知っている。

無理に時間を作らなくても大丈夫だろう。


すっきりしたので予習をしてみた。


私は曜日ごとに教科を変えて、一教科を一日に一週間分やる派。


月曜日は数学、火曜日は古典、水曜日は現代文、というように。


今日、木曜日は英語の日と決めていた。


教科書とノート、電子辞書を開きながら、取り出したシャーペンを意味もなく回してみる。


くるり、右手の中で踊るネイビー。


上に載せた筆箱の重みで教科書が閉じてしまわないようにして、取り敢えずノートに英文を写す。


『浮気は契約違反に含まれる?』


写すだけなら、それほど集中しなくてもできる。


だからだろうか。何とはなしに諏訪さんの問いかけが蘇って、私を乱した。


やはりあれは、はた迷惑なことに、面白そうだからからかったに違いない。


きっとそうだ。だって、それしか思いつかない。


……なんて嫌な大人なの。


しかめ面でシャーペンを握り、続きを写すことに専念した。
< 26 / 276 >

この作品をシェア

pagetop