次期国王は初恋妻に溺れ死ぬなら本望である
1、円舞曲はひとりきりで
国土を三つの海に囲まれた海洋国家、ミレイア王国。その歴史は古く、現国王アスター陛下は十二代目の君主である。肥沃な大地と温暖な気候に恵まれた豊かな国だが、五年前に陛下が病に倒れてからは貴族達の勢力争いが激化し内政不安定な状態が続いていた。
だが、そんなミレイア王国の王都シアンも今日ばかりは明るい華やぎに満ちている。街道にはいくつもの出店が立ち並び、旅芸人達は歌や踊りでお祭りムードを盛り上げる。裕福な家もそうでないところも国花であるミモザを軒先に飾ることで、祝福の意を表していた。
そう、今夜は国民から絶大な人気を誇る王太子フレッドの結婚披露パーティーが開かれるのだ。
今年で二十四歳になるフレッドは、頭脳明晰かつ眉目秀麗。にもかかわらず少しも驕ったところのない謙虚で誠実な人柄で、全てを兼ね備えた理想的な王位継承者として老若男女から愛されいた。涼しげなプラチナブロンドにアイスブルーの瞳、天使のような優しい微笑を浮かべる彼は、まさに通り名である『白王子』そのものであった。
そんな彼の花嫁に選ばれたのは、名門ロベルト公爵家のひとり娘であるプリシラである。美しく聡明で、未来の王妃になるべくして生まれてきたような娘だった。これ以上ないほどにお似合いの二人の結婚、国をあげてのお祭りムードも当然のことだろう。

「さぁ、これで完璧! よくお似合いですわ、お嬢様。いえ、もう王太子妃とお呼びすべきですわね」
乳母として長年プリシラの世話をしてきたローザは、夜会用のドレスに身を包んだ彼女の姿を見つめると感慨深そうに目を細めた。肩が大胆に開いた深緑色のドレスはロベルト公爵が金に糸目をつけずに用意させた最高級品だ。ふんわりと広がるスカートには手間のかかる金糸銀糸の細やかな刺繍、スカートの裾からちらりと見えるゴールドレースは遥か南方の国からわざわざ取り寄せた希少品。
胸元を飾る大粒のダイアモンドネックレスは王妃に献上しても差し支えのない品だ。
「結婚式は一月後よ。気が早いわ、ローザったら」
プリシラは苦笑しながら言った。今夜のお披露目パーティーから始まり、様々なしきたりの儀式を経て一月後にようやく結婚式を挙げる段取りになっている。ミレイア王国は歴史ある大国、王族の結婚式ともなれば仕方のないこととはいえ、当事者のプリシラとしては少々うんざりだった。もちろん、そんな本音は微塵も表には出さないが。
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