Sの陥落、Mの発症
後日談

劣情リマレンス

柔らかいベッドと心地良い暖かさ。
素肌にシーツが纏うのも気持ちいい。
それに落ち着く良い匂いがする。

「………」
「ん…」

何か聞こえたような気がするけど、まだ起きたくない。
うとうとと夢と現実の狭間でさ迷っていた。

その時。

「ひぁ…っ」

身動ぎして無防備になっていた右側の首筋にベロりと生暖かい感触が這うように登り、驚きと同時にぞくりとした気持ち良さが駆け上った。

「な、に…っ」

慌てて目を開けると私の上に跨がり、両手で顔の横に手をついて見下ろす眼と視線がかち合った。

「佐野くん…っ」
「おはようございます」
「な、舐めた…?」
「何か問題が?」

今さら何をと言いたげにいつもの笑みでそう言う彼はなんだか機嫌が良さそうに見える。

「こ、この間も思ったけど…起こし方に問題があると思う」
「普通に声かけても起きない方にも問題あると思います」
「でも…」

もう少し普通の起こし方してくれても、と抗議をする前に佐野くんの口元が嫌に楽しそうにつり上がった。

「ところで」
「……」
「昨日いつ寝たか覚えてます?」

にやりと笑う彼は私を苛めるのが楽しい時の表情で、嫌な予感しかしないながらも昨夜の記憶を辿っていく。
しかしどこか記憶が曖昧で思い出せない。
恥ずかしいほど乱れさせられ、体力的な限界を迎えていたのは覚えているけれど。

「何回目かな、奥突いた瞬間いやらしい声出して…」
「ちょ、聞きたくない…っ」
「イッたまま飛んだんですよ。でもすごいのは」
「やだ…っ」

朝からなんてことを、と恥ずかしさのあまり両手で耳を塞ぐも許されるはずがなく、覆い被さってきた佐野くんは肘をベッドについたまま両手で私の手を耳から剥がす。
そのまま耳元で低く甘い濡れた声で囁いた。


「意識なくてもひくついて離さなかったよな」


「っ!!」

弱い耳元と卑猥な情景を彷彿とさせる言葉に身体の中心が一瞬で溶ける。
身体の下で思わず腰が反応して脚が動いたのに気付いた佐野くんは、のし掛かるように身体を密着させた。

「あれ、なんか身体熱くないですか?思い出した?」
「…っ」

明らかに分かっていてとぼけるように言う彼に返せる言葉がない。
私が何も言えないところまで分かってて言うのだからひどい。

両手から手が離され、身体を起こすついでとばかりに手のひらで撫でられた太ももが大袈裟なほどびくんと反応した。

「さて、帰りましょうか」
「え…」
「シャワー浴びたいでしょう?チェックアウトまでそんなに余裕ないので」

そう言って何もなかったかのような顔でベッドから降り、「先にもらいます」と言って佐野くんはシャワールームへ消えた。

ベッドに残されたのはわざと火を付けられた身体。

ひどい。

身体に疼く熱がただ黙って冷めるのを待つしかない自分が恥ずかしいやら悔しいやらでうつ伏せになって枕に顔を埋めた。

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