ぼくのセカイ征服
『計画:蠢動』
いつもの帰り道。いつものファーストフード店。ただ、いつもとは違う点が2つ、あった。一つ目は、時間。店内の無駄に大きな時計は、いつもならもう家にいるはずの、午後8時を指している。
そして、もう一つの違い。それは…


「先輩先輩先輩ッ!と〜る先輩っ!!」
「この距離で何度も怒鳴るなっ!あと、その呼び方はやめろっ!」

本来なら独占しているはずの、僕愛用のテーブルに、相席している者がいる事。
まったく。

「して、先輩。携帯電話はお持ちでしょうか…?」
「…持ってるよ…」

今時、小学生でも持ってるヤツは持ってるだろ?余計な事を聞くな。
っていうか。もう帰りたい。すごく帰りたい。ただでさえ、疲れているというのに。コイツの相手をしていると、さらに疲労が蓄積していく様だ。

「ならば、アドレス交換をしましょう!方法は赤外線で…」
「あっ…悪い。僕のケータイ、赤外線通信機能はついてないんだよ。」

アドレス交換なんてしてたまるか。特にコイツとは死んでも嫌だ。僕のケータイに赤外線通信機能がついていなかった事を、心から神に感謝する。

僕のケータイに赤外線通信機能が無い事を聞くと、僕の目の前にいる『一見、女に見える男』は、う〜ん、と唸り、その直後、何かを思い付いたらしく、おもむろに紙と鉛筆(シャープペンシルではなく、今時珍しい普通の鉛筆だ。)を鞄から取り出し、軽快に何かを書き始めた。そして、その何かを書き終えると、紙を僕に差し出しながらこう言った。

「それでは、お手数ですが、ここに空メールを。」
「……」

…やられた。どうやら僕はコイツをナメていたようだ。ただのバカだと思っていたが、意外と侮れない。まぁ、赤外線通信機能が無いからといって、アドレス交換を諦めるヤツがいるのかどうかは疑わしいが。

「ふと思いましたが、空メールって、キャラメルみたいです!」
「……」

限りなくどうでもいい。
嗚呼、何で…?どうしてこんな事に…?
いや、本当に、どうしてこんな事になっているのだろう?別に、早く家に帰りたいわけではない。が、コイツと一緒にいるのは嫌だ。もう、本っっっ当に嫌だ。この上なく嫌だ。物凄く、疲れる。
そもそも、この後輩は何でこんなにフレンドリーなのか?まだ、出会ってから数時間しか経っていないというのに。
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