冷血部長のとろ甘な愛情
稀な笑顔は完全に消されて、よく見る不機嫌な顔になった。何かを探るような目で見られて、肩を竦める。あとで嘘がばれたら面倒なので正直に答える。


「坂本くんと食事の約束をしてます」

「食事だけ?」

「そのつもりです」

「ふうん。なら、終わってからでいいから」

「えっ?」


その時ちょうど電車が来たので乗り込む。坂本くんとの食事が終わってから会うというのだろうか?

目の前に立つ部長を見上げると同じようにこちらを見ていて、目が合う。混雑しているから距離は近い。

部長はつり革を握り締めているが、私には何も持つところがない。以前のように「ほら、掴まって」と腕を差し出されたので、遠慮なくそれを掴んだ。


「あの、終わってからとは?」

「何時くらいに食事は終わる?」

「多分八時頃には終わるかと」


いつもパターンは決まっている。居酒屋で食事をする時間は六時半から一時間くらいで、その後ホテルに行く。


「じゃあ、八時半に駅前のコーヒーショップで待っているから来て」

「あ、はい……」
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