カノジョの彼の、冷めたキス


ひさしぶりに顔を突き合わせた同期同士で盛り上がり、時間はどんどん過ぎて行く。

けれど、居酒屋の貸切時間が終わる頃になっても渡瀬くんは姿を現さず、あたしは彼のことばかりが気になった。

幸せそうに笑う皆藤さんの笑顔を見るたび、休憩スペースで見た渡瀬くんの横顔が思い出されて切なさが募る。


「ごめん。ちょっとやり残したこと思い出したから、あたし会社に戻るね。これ、あたしの分」


とうとう耐えきれなくなったあたしは、カバンを持って立ち上がった。


「え?どうしたの、突然」

「ラストオーダーまであとちょっとなんだからついでにいれば?」

周りの同期に引き止められたけど、頭に浮かぶのは渡瀬くんの横顔ばかりで、他の人の声なんて少しも響かなかった。

幹事の人に五千円札を一枚手渡して、酔っ払っている同期たちを掻き分けながら座敷の入口へと向かう。

引き戸を開けてパンプスに足を通していたとき、真ん中の奥の席に座っていた皆藤さんがこっちを見ていることに気が付いた。







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