記憶の中のヒツジはオオカミだったようです!
10 デートは定番の……
<明日、朝七時に迎えに行くよ>
昨夜、午後八時に届いたメールの通り、朔は午前七時にやってきた。
「おはよう、ヒナ。準備出来てる?」
もちろん、きちんと用意をして持っていた雪乃だったが、扉の前に立つ朔の爽やかさに目を細めた。
「どうかした?」
「ううん、何でもない」
前の開かれた短めのピーコートからシャツと灰色のセーターが覗き、濃い色のジーンズにはキャンパスシューズとカジュアルな服装だ。
対する雪乃は、いつもと同じようにネルシャツにジーンズを穿いて、モッズコートを羽織って靴はキャンパスシューズと微妙なお揃いになってしまった。
「今日も可愛いね、ヒナ」
「あのさ、いつもと同じでしょうが。別に着飾ってる訳じゃないんだから」
「そうだけど、それがいいんじゃないか。着飾られたら、他人行儀じゃない?」
一緒にエレベーターに乗り込むが、朔は雪乃とは反対側の壁に背中をつけて見つめてくるだけで触れてはこない。
「なによ? じろじろ見てると目つぶしするわよ」
雪乃のことを尊重してくれていることが嬉しかったが、照れ臭くてそんなことしか言えなかった。
エレベーターが地下に着くと、さっさと降りて朔の車の横に立つ。
鍵が開くのを待っているだけなのに、朔はロックを外すとそのまま助手席の方に進んできて、雪乃のためにドアを開けてくれる。
正直、雪乃は苦手だが、彼が育ったイギリスということを考えて黙っていた。
「ありがとう」
「どういたしまして、ヒナ」
ドアが閉められ、シートに体を落ち着けると、小さく息を吐いた。
気を落ち着けてシートベルトをつけようとすると、運転席に朔が座った。