記憶の中のヒツジはオオカミだったようです!





 けれど、気にするなと言われても、切れることなく鳴り続いている着信音に、何か緊急の内容じゃないかと気になって仕方がない。それに、キスを許したつもりのない雪乃は、両手で朔の唇を塞いだ。

「さっさと出なさいよ。仕事の電話かも知れないでしょうが」

「んーー」

 真剣な目で訴えれば、諦めた目をして体を起こした。

「はー、ヒナは真面目だね」

 ソファーから立ち上がった朔はスマートフォンを拾い上げ、画面に視線を落として舌打ちした。
 
「もしもし……まだ時間じゃないですよね? せっかくの時間を邪魔しないでくれませんか?」
 
 雪乃はソファーに座り直して、Tシャツを下げるとぶつぶつ文句を言う朔にため息を吐いた。

(やっぱり仕事あるんじゃない。朝からなんつーことを)

 たった今起こったことを思い返し、気まずくなった雪乃は立ち上がって卓馬の家に戻ろうとした。
 話しているのを邪魔しないように、そっと出て行こうとしたが目ざとく気づいた朔が近づいてきて、耳からスマートフォンを外して頬に片手を当てて親指で唇をなぞってきた。
 
「明日は一日休みだから、デートしよう。時間を空けておいて。詳しいことはメールする」

「…………分かった」

 自分がデートというキーワードを口にしただけに、頷くしかなく了承すれば、軽くキスが振ってきた。
 それを別れの挨拶に、雪乃はやれやれという思いで部屋を出た。
 向かいの扉にカードを近づけて鍵を開けながら、ここまでスキンシップが好きになったのは海外生活のせいなのだろうかと頭を悩ませた。
 会う度にこんな風にされては、心臓がもたない。
 今も、触れ合った唇と触れられた肌が熱かった。
 電話が鳴ってよかった半面、本当はキスの先に少なからず興味がある。
 そして、卓馬とは想像出来なかった行為も、朔とだと簡単に想像できる自分に雪乃は嫌気がさしてきた。




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