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夏休み五日目の朝は、久しぶりによく寝たせいか目が覚めるのも早い。
カーテンを開けると、昨日とは違い空には薄雲がかかっていた。

昨夜はなにもかもを諦め眠ってしまったため、お化粧も落とさなかった顔がカピカピと突っ張っている。

床に散らかる浴衣一式をたたみ、無駄な努力と知りつつ手アイロンでシワを伸ばす。
お世話になったベッドからシーツ類を剥がし、まとめておいた。

本当は洗濯したいけれど、きっとここを出るまでには乾かない。
そろそろ休暇を終えて戻るはずの、このお屋敷の優秀な家政婦さんに後を託す。

荷物をまとめたスーツケースを引きずらないように持って、そっと部屋を出る。
徹生さんの部屋である向かい側のドアは、堅く閉ざされたままだった。

顔を洗って覗いた洗面台の鏡に映る目は、しっかりと赤かった。どうやら、ネズミの気持ちになって泣いていたらしい。

大急ぎで炊いたご飯を、熱々のままおにぎりにする。
具は在庫整理の鮭と自家製らしい梅干し。ついでに数本残っていたウインナーも炒めておいた。

味の間違いようがない朝食にラップを掛け、コーヒーを落とす。
これを一杯飲み終わったら出発しよう。ぼうっと、ドリップが終わるのを待っていた。

「おはよう。起きるのが早くないか?」

「……おはようございます」

そっちこそ早すぎます。まだ7時ですよ?
徹生さんが起きてこないうちに出ていこうと思っていたのに。

ほんの数日の間に身についてしまった習慣で、二杯分淹れたコーヒーを注ぎ分け、片方を徹生さんに渡す。

「朝ご飯はそちらを召し上がってください。まだ温かいと思います」

お皿にのせたおにぎりはまだ調理台の上だった。
だけど徹生さんは、それとは全く別の方向を向いて眉根を寄せる。視線の先にあるのは私のスーツケース。

すうっと息を吸って、接客の研修で習ったままのお辞儀をした。

「私はこれで失礼いたします。大変お世話になりました、桜王寺さま」

徹生さんの脇を通りスーツケースを置いたところまで行こうとする私の腕が、険しい表情の彼に捕まる。

「どういうことだ? まだ問題は……」

「音も咳も、原因はすべてコウモリ、ですよね」

徹生さんが小さく息を呑む音が聞こえた。