臆病者で何が悪い!
「飯塚さん、大丈夫?」
他の同期の男も、気にして集まって来る。
「希、ちょっと、飲み過ぎたみたい。ねえ、桐島」
私は、二次会に行く人の出欠を取っている桐島を呼んだ。
「ああ? どうした」
「悪いけど、私二次会はパスする。希を放っておけないし。とりあえず家まで連れて帰るから」
あんな状態の希が二次会に行けるとは到底思えないし、放っておけるわけもない。
「……ああ、そうだな。こっちは俺と他の奴でどうにかするからいいよ」
「ごめん」
そう告げて希の傍にしゃがみ込んだ。
「希、気持ち悪い? トイレ行かなくて大丈夫?」
私たちを気にしつつ、二次会に行くメンバーたちはお店から立ち去って行った。
「沙都……、私っ」
気持ち悪くて俯いているのだと思ったら、希は泣いていた。
「ちょ、ちょっと! 希、どうしたの?」
今日もきちんとした服を着ている。女性らしくて品の良い、シンプルなワンピースその上には仕立ての良いベージュのコート。そんなきちんとした希が店先に座り込んで、肩を震わせて泣いている。その肩を抱き寄せて、希の顔を覗き込んだ。
「何か、辛いこと、あった?」
「沙、都……。私、どうすればいいんだろう」
その声はどんどん涙にぬれたものになって。私の胸はチクチクと痛む。
「ずっとここにいたら風邪ひいちゃうよ。私が、希の家まで送って行く。一緒に帰ろう。私に話してくれるなら、いくらでも聞くから」
「沙、都――っ」
こらえていたものを吐き出すように、希が声を上げた。そして私に抱き付いて来る。
「お願いがある」
「うん。なんでも言って」
こんな弱々しい姿、見ているだけで胸が痛くなる。どうしてこんなにも苦しんでいるんだろう。その原因は、やっぱり田崎さんだろうか。
「……田崎さんに。田崎さんに、電話して?」
「え? 私が……?」
肩を抱く希が、こくんと頷いた。
「ここのとこずっと、話せてないの。電話しても、仕事で遅いからってタイミングが合わなくて」
希が、嗚咽まじりに言葉を吐き出す。週末の夜の街の雑踏が、その弱々しい声を掻き消してしまいそうになるから、私は希の顔に耳を近付けた。
「……でも、それはきっと口実で。私を避けている気がする」
「どうして、そんな」
「だって、前と全然違うの。私に対する態度も、何もかも。だから……っ」
どうして、田崎さんはそんなこと――。
「私、今日、こんな風に酔いつぶれたら田崎さんに心配してもらえるんじゃないかって。そう思って。自分じゃもう電話するのも怖いの。冷たい声をききたくない。だから、沙都から電話して……っ!」
「希……」
「お願い。分かってる、凄い惨めなことしてるって。でも、それでもどんな理由でもいいから田崎さんに会いたい」
傷付いて心をすり減らして、こんなにも泣き崩れる希を放っておけなかった。希の望みを叶えてあげたい。思うようにしてあげたい。
「分かった。ちゃんと伝えるから。だから、もうそんなに泣かないで」
私はもう一度希の細い肩を抱きしめた。