ひとはだの効能
毎日君のことだけを


 淹れたての、コーヒーの香り。オイルをのせたフライパンに朝採れの卵を割り入れると、じゅわっと食欲をそそる音が上がる。

 こんがりと焼けた二枚のトースト間には、とろりととけたグリュイエールチーズと薄切りのハム。その上に半熟に焼けた目玉焼きをのせて、ぱらりと胡椒を振りかける。

 たっぷりのレタスと一緒にプレートにのせれば、Pregare特製『クロックマダム』の出来上がりだ。

「香澄さん、朝ごはん出来たよ」

「はーい、今行く!」

 アルの散歩帰りに寄ってくれた莉乃ちゃんと店先で話し込んでいた香澄さんに、カウンターの奥から声をかける。

 店の中から見守っていると、大げさすぎるほど両手を振って莉乃ちゃんとアルに別れを告げ、香澄さんがようやく店の中に戻ってきた。

「あ~、お腹減ったぁ。いただきます!」

「どうぞ」

 俺からの合図を待って、香澄さんは大口を開け、がぶりとトーストにかぶりついた。その様子は、なんだか莉乃ちゃんに従順なアルを思い出させて、ついいつも吹き出してしまう。

< 132 / 147 >

この作品をシェア

pagetop