君を愛していいのは俺だけ

 来月末に退職を決めているアパレル企業は、業界最大手。
 安定は保証されているけれど、長く働きたいとは思えなかった。

 同期がパワハラを受け、入社して一年も経たずに辞めてしまったのだ。

 次の企業への転職も決まっているけれど、最後まできちんと仕事をしなくてはと、今朝も正面入口から社屋へ入った。


「秋吉、進捗報告」
「おはようございます。明日の来客向け資料と次のプレゼンについては、本日中に提出します」
「店舗の売上報告は?」
「午前中には、お出しできると思います」
「ったく、仕事が遅いんだよ、お前は」

 出社するなり、上司から仕事の進捗を聞かれるのは毎朝のこと。
 それだけならまだしも、必ず怒られるのが耐えられなくなった。
 上司の機嫌が悪い時に世間話なんてしようものなら、睨まれて仕事が増やされる。

 ここから早く抜け出したいと、結構前からずっと考えていた。


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