全て美味しく頂きます。
6 Thursday ーレストラン。からのヤキトリー
 木曜日。

 次の日、私は初めて自分から杉原さんに『会いたい』と連絡した。
 彼はきちんと応じてくれた。

 呼び出したのは、支店から市電で二駅離れたレストラン。

 こぢんまりとした白い壁のその店は、まだ付き合い始めの頃に、彼に一度連れていって貰った店で、夕方にはお酒も飲める。


「やあ、すまないね。少し遅れた」

 ふわりとした微笑をたたえて、彼は私の向かいに腰かけた。

「あの__」

 決心は固い。
 早速切り出そうとした私を,彼は軽くいなした。

「まあそう急ぐなよ。
 腹が減ってるんだ、注文くらいさせて?
 ああ、君。これとこれと…それから白ワイン。このお薦めのやつ、グラス2つね」

 通りかかったウェイターを呼び止めて、迷うことなくいくつかの品をオーダーする。
 相変わらず私の意見を聞くことはない。

 以前の優柔不断な私の目には、それが決断力なのだと見えたものだけど。

『俺には選択する権利すらないのか』
 ラーメン屋さんでそう言った祥善寺を思い出し,思わずクスッと笑ってしまう。

 杉原さんが、怪訝そうに眉をしかめた。
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