いつか羽化する、その日まで
Day 4 : 私、甘いものはもっと好きです。

この数日で、ほんの少しだけ心が軽くなった気がする。自分でも〝気がする〟程度の些細な変化だけれど。それでも、なんとなく足取りが軽いのだ。

昼食を食べ終えた私は、大きく伸びをした。


(畳って、本当に落ち着くなあ……)


私はぐるりと部屋の中を見渡す。
懐かしさを覚える畳に、カバーがかけてあるけど冬になれば大活躍するであろうストーブ、ちゃぶ台のような丸い四つ脚のテーブル……。
さながら祖父母の家のようだ。

営業所にはこの小さな和室があり、佐藤さんはいつもここでお昼を食べている。初日にその話を聞いた私は、こうして毎日和室で佐藤さんと昼食を食べるようになっていた。ーー佐藤さんの休んだ二日目を除いて。


「立川さん、お茶どうぞ」


湯飲みを二つ乗せたお盆を持って、佐藤さんが給湯室から戻ってきた。


「佐藤さん! 私、飲み物なら持ってきてますから」


慌てて言ったが、佐藤さんはそのままゆっくり和室にあがり、テーブルを挟んで私の向かいに腰を下ろした。


「だって立川さんの飲み物って、そのペットボトルでしょう? 美味しい茶葉でいれたお茶の方がゆっくりできるじゃない」


ペットボトルは昼食の弁当と一緒に近所のコンビニで購入したものだ。〝近所〟と言っても、少しばかり歩くことになるのだが。

中心的な都市でもないため仕方がないことだが、営業所の周りには店が少ない。昨日のラーメン屋へ向かうときも結構歩いたし、小林さんや村山さんは、普段昼食はどうしているのだろう。
佐藤さんは、別の会社に勤めている旦那さんの弁当を用意するついでに自分の分も作っているそうで、毎日美味しそうな弁当を持参している。


「もういれちゃったから、はい」


目の前に湯飲み茶碗が置かれた瞬間、ふわんと緑茶のいい香りがした。

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