アイより愛し~青の王国と異世界マーメイド~
第2章 最後の王様


 差し出されたその手に、自分の手を重ねる。冷たいけれど、確かに。熱を感じた。
 その瞬後、突如部屋全体が揺れた。

「おっと、そろそろ限界だ。もう保たん」
「…そうですね、いったん出ましょう」

 そのまま重ねた手を強くひかれる。見た目よりずっと、力強く。
 急に立ち上がったせいで体が少しふらついたけれど、それ以前に部屋自体が大きく揺れているようだった。

「な、なに…?」

 それから勢いよく大股で歩き出す自分よりも小さな背中を慌てて追う。

「今日は消耗し過ぎた。眠くて死にそうだ」
「ゆっくりお休みして頂きたいところですが、先にご報告にいきましょう。リズ様ならこの娘の正体もお分かりになるかもしれません」
「わざわざお小言を聞きにいくのか、気が進まん」
「どうせ殆どお見えになってるはずです。サボるとお小言が増えますよ」

 向かっているのはどうやら、この部屋の出入り口みたいだ。まっすぐ、最初にふたりが居た薄闇を突き進む。
 しばらくして慣れない視界が、すぐに明るく開いた。
 ぐんぐん歩く勢いにひかれながら、その背中に呼びかける。
 流れのはやさに体も気持ちもついていけない。
 あたしは一体この後、どうなるのだろう。

「ま、まって、えーと、名前なんだっけ」
「なんだお前、ひとの名前も覚えられないのか!」
「だ、だって、長すぎるよ…」
「…ふむ、そうかもな。ではシアと呼べ。短くていいだろう」
「ジェイド様!」

 すぐに斜め前から叱咤の声が飛ぶ。
 それに彼はけろりと笑って返した。

「いいじゃないか、もう誰も使わない呼び名だ」
「そういう問題ではありません! あなたはこの国の国王なのですよ!?」
「だがマオはシェルスフィアの国民ではないし、この世界の人間ですらないのだろう? いいじゃないか」

 そう言って笑う顔は、歳相応の男の子だった。その笑顔と“国王”なんて肩書きは不釣合いなくらいに。
 というか、未だにいろいろ信じられない。わからない。
 自分のこの状況も、今自分の身に何が起こっているのかも、これからどうなってしまうのかも。
 だけど次第に目を覚ます体中の感覚が、夢ではないと全身に告げていた。

「…シ、ア…」
「マオ、お前の素性を疑うのはリシュカに任せるさ。おれの仕事じゃない」
「あ、あたしはどうなるの…? あたしは、このあと…」

 別の世界とシアは言った。殺されたくなかったら、自分の役に立てと。
 でも、あたしにはそんな力あるわけない。
 じゃあ、殺されるの?
 この世界で?

「どうなるかは、お前次第だ。世界が違えどそれは同じだろう?」

 きっぱりと、シアは言い放つ。
 その青い瞳にあたしを映したまま。


「お前の生き方で、お前の運命は決まる」

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