メトロの中は、近過ぎです!
大野さんが私の肩を抱いている方の腕に力を入れた。

「真帆…」

ドキリとした。初めて名前で呼ばれた。
心臓が自分の外側に出てしまったんじゃないかと思うくらい、動いた。

「守ってやれなくてごめんな」

すごく小さな声。

「ううん…大野さんの…せいじゃ…」

鼻の奥がツンと痛んで、じわりと涙が浮かぶ。

「真帆」

大野さんの腕にしっかりと抱かれていた。
もっと強く抱いてほしい。
声に出せずに、ただしがみついた。
大野さんの腕の力も強くなる。

顔を上げると大野さんの二重の目が私を見つめている。

見つめあったまま、二人の距離が近づく。

一瞬、大野さんの顔が辛そうにしかめられたあとに、また距離を離された。

「泣き虫真帆ちゃん」

ニヤリと笑ってそう言うと、大野さんは私の肩を抱いたまま立ち上がらせ、

「寒くなったな。戻るぞ」

駐車場に向かって歩きだした。

今のはなんだったの?
キスしようとしてた?

いやいや、それはない。
だって私たちはただの同僚だし。

ドキドキが止まらない。
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