メトロの中は、近過ぎです!
「これじゃ歩けないな」

大野さんはニヤリと笑うと片方の手を外し、もう片方の手は私の肩を抱くようにして歩きだした。
これだけ密着していたら、私の心音が絶対に聞こえてしまうのに。

これは、同僚の距離ではありません。
でも言い出せない。

タオルケットを二人でまとった格好のまま、私たちは砂浜に降りた。

ザザーンという波音が大きく聞こえる。
波打ち際には自然が作り出した美しい波の跡。
自然の美しさの前では、悩みなんてちっぽけなもののように感じる。

ふいに肩をひかれ、見上げると、
「あそこに座ろう」

大野さんが指差すのは、防波堤からの階段。
階段の一番下の段に二人でより添って座った。

合わせたところを私がしっかり握りしめていても、私の肩に回した腕がはずれることはな
背中と横腹から大野さんの熱を感じる。

それが居心地が良い。


海は、大きな音を立てながら、時折波しぶきを上げて海岸に打ち寄せている。

それが果てしなく続く。

まるで、この世界に二人しかいないように…
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