メトロの中は、近過ぎです!
時間は12時をとっくに過ぎた。

外から聞こえる車の音とかも静かになって、もうそろそろ寝る時間だと悟らされる。

他愛もない会話が途切れると、
「じゃ、そろそろ」
と言って、片付けようと立ち上がった。

その私の腕を大野さんが掴んだ。

ドキリとした。

大野さんが真っ直ぐに私を見つめている。

「おまえ、もうアイツのいる飲み会行くな」

アイツ?

さっきの川端主任のことだと気付くのに少し時間がかかった。

「まさかあんなことしてくる人だとは思っていなかったんです。
いつもは紳士的で良い旦那さんって感じなのに…」

そこまで言うと更に腕を引かれて私はもう一度ソファーに座らされた。

「信じ過ぎなんだよ。もっと人を疑えよ。
お嬢様で育ちましたって顔してるから狙われるんだぞ」

え?誰がお嬢様?
うちは自営業をしている普通の実家で、どう見てもお嬢様とは…

「私がお嬢様な訳ないじゃ…」

ないですか。までは言わせてもらえず

「そんな顔してんだよ」

強い口調で言われた。

なんか怒られてる。
なんで怒ってるんだろう。
何がキッカケでそうなった?

「大野さんこそお坊ちゃまで…」

「だからって家に上げてもいいのか?」

え?

「俺だから襲われないとでも思ったんだろう」

「だって、大野さんが、襲わないって…」

「だからそんな言葉を信用するなよ」

更に腕をひかれて、大野さんの胸に倒れかかった。

一瞬、後ろに虫かなんかがいるから助けてくれたのかと思った。

でも、この状況はどう見ても抱きしめられてる…

嫌悪感より理性が抵抗を始めた。
このまま流されちゃいけないと…

離れようともがくけど、その大きい腕は全く動かない。

逆にピッタリと抱きすくめられてしまった。

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