メトロの中は、近過ぎです!
1階の倉庫では、大野さんと戸田君がスーツの上着を脱ぎ捨て、ネクタイも外し、ワイシャツは腕まくりして、ダンボールケースを運んでいた。
しかも楽しそうに笑い合いながら…
私なら持ち上げることすらできないダンボールケースを…

「お疲れ様です。どんなですか?」

あんまり目を合わさないように声を掛けた。

「あ、佐々木さん。こっちはあと少しですよ」
「課長から電話がありました。契約取れたらしいです」
「おー!」

二人の低い喜びの声が上がると嬉しくなる。

「さすが課長と北御門さん。すげーな」

大野さんも興奮している。

「俺は南主任の方もすごいと思いましたけどね」
「だよな。あの人とは戦いたくないよな」
「将棋強そうですよね」

あははとまた二人で笑いあっている。

いつの間に仲良くなったんだろう。
大野さんの雰囲気が変わっている。
爽やか大野ではなくなったけど、楽しそう。

「……ですか?佐々木さん?」

ヤバい。聞いてなかった。

「あ~。うん、そうだね…はは…」

適当に返事すると大野さんの動きが止まった。

「社内恋愛しないんじゃなかったのかよ」

え?何の話?

「主任のあれ見せられたら敵わないですよ。俺も惚れそうでしたもん。残念でしたね、大野さん」
「なんで俺が残念なんだよ」
「大野さん、佐々木さん狙いでしょ?俺、応援しますよ」

「え?」
思わず声が出た。

「は?何言ってんだよ、おまえ…」
「見てれば分かりますよ。この前佐々木さんが遅刻したとき、すっごい焦ってたじゃないですか?あんな大野さん初めて見ました。それまでは近寄り難かったですけど…あれですね。片想い仲間ですね」
嬉しそうに言う戸田君。

「一緒にすんなよ」
声が小さくなった大野さん。

私まで頬が熱くなってしまうじゃないか。

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