誓いのキスを何度でも
会うこともないと思っていた。
4月大安吉日。都内某ホテル。


「ご結婚おめでとうございます。」と私が笑顔を見せると、

「ありがとう。果歩ちゃん。
やっと、お嫁に行けました。」と微笑む笑顔があいかわらず、美しい。

新人ナースの頃、教育係だった5歳年上のミヤコさんが
この度、転勤してきたバツイチ35歳の小児科医とめでたく結婚したのだ。

昔のことはあまり思い出したくなくても、お世話になった先輩の結婚には是非、お祝いに駆けつけたいと、
賑やかなカジュアルな2次会に出席させてもらったのだ。

私が今住んでいる地方都市から2時間以上かけて電車を乗り継いでやって来た。

やっぱり、私に都会は似合わなかったんだな。
憧れているだけで良かったのかもしれない。

あの病院で、初めて働き、恋をして、傷ついた。
好きなだけでは一緒にいることはできない。
と思い知った恋だった。

でも、あの苦しく愛しい日々を忘れはしない。

真剣に愛して、宝物のような誠太郎を授かった。

後悔はしていない。

看護師免許を取って最初に勤めた病院は
誠太郎を妊娠して1年3ヶ月で辞めてしまったので、
迷惑ばかりかけて、ちっとも役にたたなかったと、合わせる顔がない。とも思っていたけど…
私がまた、看護師として仕事をしていると知っているミヤコさんは、教えた甲斐があったと、笑ってくれる。
あれから7年も経っているから、私を知る同僚や先輩はもうほとんどいないようで、少し安心して飲み物を口に運ぶ。

でも、親子共々お世話になったミヤコさんにどうしても直接おめでとうが言いたかったのだ。



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