誓いのキスを何度でも
幸せそうなミヤコ先輩の顔を見たらもう、ここにいる必要はない。


私の住む大きな川の流れる町から
たった半日離れただけなのに、
誠太郎にもう会いたい。と思う自分がいる。
早く帰ろう。
私の居場所に。


「先輩、幸せになってくださいね」と笑顔で挨拶をして、30分程で会場を後にしようとすると、


「…果歩?!」と新郎と話しながら歩いてきた男性が急に立ち止まり、私の顔を見る。

驚いた切れ長の瞳。
短く整えられた黒い癖のある髪。
肩が広く、足が長い。
あいかわらず、カッコいいんだね。
高級そうなスーツで身を包んだ、私より頭ひとつ、それより背の高い
整った顔立ちの男の顔を見上げた。

ここに来たら、会ってしまうかも知れない。と覚悟をしていた。

だって…

彼は私が昔勤めていた桜庭(さくらば)総合病院。桜花(おうか)グループの跡取りなのだから…

桜花グループはC県を中心にして展開していて、
総合病院、検診センター、透析専門病院、老人施設などなど手広く運営しているグループだ。

ちなみに私が勤めていたのは都内の市街地に立つ大規模な桜花グループの中心となる新しい総合病院だった。

留学して7年も経てば、アメリカから帰っているかもしれない
と心のどこかでわかっていたのかもしれない。


「お久しぶりです。桜庭先生。もう、お父様の跡は継がれたんですか?」と落ち着いて微笑むことが出来た。

「いままで、どこにいた…」

「飲み物を取りに…」

「そんな事を聞いているんじゃない。
なぜ、俺から逃げたのかを聞いているんだ」

どうしたの?
昔ふたりの間になにかあったと疑われるんじゃないの?
昔はどこで会っても、顔色も変えずにすれ違ったのに…
と少し驚く。


「果歩ちゃん、桜庭先生と知り合い?」と先輩が少し驚いた声をだす。

まあ、当然の疑問だ。
新人小児科ナースと
御曹司との接点なんか普通はない。

「大した知り合いではありません。
今日はお招きありがとうございました。」

とミヤコ先輩に笑いかけると、桜庭が私の目の前に一歩出て私をの瞳を捉え、

「…果歩、俺が留学して、すぐに結婚したらしいな。…今、幸せなのか?」

「…はい…」

真っ直ぐ見つめ合った瞳にそれ以上の言葉が見つからない。
私の返事に悲しい色を見せたような気がして苦しくなり、私はクルリと後ろを向いて歩き出す。

「え?果歩ちゃん、結婚してるの?」というミヤコ先輩の声が聞こえるけど、
そのまま、振り返らずに会場を後にした。

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