秋の月は日々戯れに

そんなに無理して笑うことはないと思ったが、それを伝えたら今度こそ後輩が泣いてしまいそうだったから、それをきっと、後輩は望んでいないから、今はただ、その無理やりな笑顔を受け止めた。


「その頃お前は、きっと本社だな。有給が取れたら、慰めに行ってやってもいい」


彼の言葉に、途端に後輩は表情を変えて「ええー!」と不満そうな声を上げる。


「それって、絶対に来ないフラグのやつっすよね!先輩ひどいっすよ。可愛い後輩が失恋して落ち込んでたら、仕事休んででも慰めに来てくださいよー!」

「後輩が失恋した程度で、仕事休んでわざわざ慰めに行く先輩がどこにいるんだよ……」


しなだれかかる様にして絡みついてくる後輩にため息をつきながら、彼はその体を腕で押し返す。

その時、目の前をひらりと白い物が横切った。

彼が顔を上げると、ひらりひらり、白い物は上から下へと舞い落ちていく。


「ああ……そう言えば、降るって言ってましたね。今晩の雪は、積もるらしいっすよ」


後輩の声を聞きながら、彼は舞い落ちてくる白い雪を見つめる。

なるほど、だから今日はこんなに寒いのかとぼんやり思った。


「……春はまだ、遠そうだな」


何気なくそう呟いたら、ほんの少しの間があって、後輩が「そうっすね……」と何かを堪えるように、かすれた声で呟き返した。





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