クールアンドドライ
王子様とメガネ
 ひろにぃに、どこまで知られてるんだろう。
あの様子だと、結構知ってるんじゃないんだろうか。
仲の良い従兄弟らしい。 

 昔も仲が良かったなぁ、と思い出した。

 確か、私が小学校一年生のときに、いじめっ子だった男子に追い掛けられて、転んだんだ。
帰り道の途中で、周りには他に誰も居なくて、
私が泣き出したら、男の子は逃げちゃうし、そんな時に声を掛けてくれたのが、当時、小学5年生の課長だった。
「大丈夫か?」ぶっきらぼうに掛けられた声に、涙も止まって、慌てて立ち上がった。
その後、膝を擦りむいていることに気づいて、彼は、自宅まで連れってってくれたんだ。
彼のお母さんは、とても綺麗で優しかった。

 月曜日、課長に会わなきゃならないと思うと、何故だか、ドキドキしてしまう。
落ち着け、咲希。
メガネを触ることで、冷静さを取り戻す。
私のメガネによる自己暗示は強力だ。
我ながら、怖くなってしまう。

 営業部のフロアに入り、自分のデスクまで挨拶をしながらたどり着いた。
課長の方をみると、そこには居らず、会議らしい。
取り敢えず、ホッとする。

 それから、課長と接点はなくて、次第に落ち着いてきた。
彼が、昔の王子様だからといって、今の彼に対する思いは変わらない。
だから、これからも今まで通りにすれば良い、と心の中で整理が出来た頃にはもう、定時を過ぎていた。
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