クールな御曹司の蜜愛ジェラシー
矛盾して、籠絡して
 十二月の最初の金曜日。今日は弘瀬先生が顔を出しているはずだから、講義後の片付けなど、私は幹弥のところに行かなくてもいい。

 年明けから解禁される就職活動の情報を学生用のホームぺージに掲載するために、ひたすらデータを確認しながらリストを作成していく。

 私はちらりとパソコン画面の端に映る時刻を確認した。午後三時過ぎ。三限が終了するのは午後二時二十分。三十分以上経過しているけれど、彼は事務に顔を出さない。

 いつもマイクを返しに事務までやってくるのに。弘瀬先生も顔を出していないから、預けたということも考えにくい。

 一区切りついたところで私は軽くため息をついて立ち上がった。一応、確認しておかないと。一言同僚に告げてから私はそのまま上へ向かった。

 エレベーターではなく階段を使うのは職員になってからだ。学生のときなら迷わずエレベーターを呼び出していたけど、事務の仕事は運動不足になりがちだし。

 三○二号室は四限に講義は入っていなかったはずだ。大きめの分厚い扉はノックしても意味がなさそうなので、そのまま取っ手に手をかけて、重めのドアを開ける。

 中を覗くと人の気配はほとんど感じられない。教壇に目をやると、彼ではなく、先に女子学生がこちらに反応を示した。

「あ、片岡さん」

「森(もり)さん」

 名前を呼ぶと、彼女はこちらに軽く手を振ってきた。仲のいい女子学生とふたりで教壇に立つ幹弥に、段の下の位置から見上げる形で話しかけているところだった。
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