ロング・バケーション
彼の言葉に熱くなっちゃう！
駐車場を出るとドクターの車は都市高速に向かってひた走る。
車内の雰囲気は気まずいままで、何処へ行こうとしているのか、それすらも聞き出せずに困った。


彼を怒らせたのは間違いなく私だ。
不要な言葉で彼の怒りを煽ったのだから。


（だけど、何処へ行こうと言うの。遅くなるってどういう意味……）


ちらっと目線を横顔に向けても前しか見てない彼の唇は固く閉ざされたまま。
奥歯を噛み締めているようでこんな横顔を見たこともない。


シュン…と背中を丸くして反省した。
する気もないお見合いの話などするべきではなかった。



ドクターの車が高速を走り出して間もなく、大きな溜息が一つ聞こえた。
ハンドルを握っている彼が漏らしたらしく、何気なくそちらを見遣った。


固く閉ざされていた唇の端がいつもの様に斜め上に向いている。
目線はしっかり目しか見ていないけれど、雰囲気が幾らか和らいでいる様に感じた。


（気のせいかな）


人間の怒りは六秒間で収まると何かの本で読んだことがある。
だから、カッとして怒鳴りたくなった時はまず先に六秒ほど数えれてからにすればいいらしい。

< 56 / 262 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop