王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
1.王太子殿下の秘密の気晴らし

 ギールランドの国王夫妻には、三人の王子とひとりの姫がいる。
第一王子であるギルバートは、十九歳。王家の安泰は世継ぎの存在にかかっていると信じている国王は、ギルバートが二十歳になる前に妃を迎え、多くの子供を得ることを望んでいた。

 当のギルバートは好奇心旺盛な見目麗しい若者だったが、その興味の対象に女性は入っていなかった。十九歳の若さと溢れる体力は、王城でのきらびやかな舞踏会で美しい女性と踊りあかすことよりも、狩りやトーナメントで弓や槍の腕前を競うほうを望んでいたのだ。

ギルバートは騎士団の若者たちと仲良くし、冒険よろしく近くの森まで出かけることもしょっちゅうで、国王夫妻が茶会を催してもいつの間にか抜け出して探検に出かけてしまう。
どんなに可愛らしい令嬢を紹介しても、ギルバートはまったく興味を示してくれないのだ。

しびれを切らした国王が、国内の有力貴族にお触れを出したのはついふた月ほど前のことだ。


【年頃の娘がいたらぜひとも舞踏会に参加してほしい。王子の心を射止めた人間を妃として迎える】



貴族たちは大喜びだ。わが娘が、王太子妃になるかもしれないと思えば、自然に気合いも入る。

競うように新しいドレスを仕立てるので、街の仕立屋は大忙し。
舞踏会は毎週のように行われるので、食材を搬入する市場の人間も、それを調理する料理人も、流麗な音楽を奏でる楽団も新曲を覚える暇がないほど忙しい。

儲かるのはいいことで街は活気づいたが、二ヵ月も続けば体がついていかなくなる。

それでも人々は、王子の妃候補がじきに決まるだろうと期待していた。
当の本人が、まったく興味を示さないままなのを知らずに。
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