キライ、じゃないよ。

kashi.1






「え、なんだって?」


仕事中にかかってきた電話の相手は、高校時代からの友人、山近 宏也だった。

営業先から帰る途中、街中の騒音で相手の声が途切れ途切れで聞き取りにくい。

相手が山近だと分かったのは、携帯の液晶画面に出た名前を見たからだ。

しかし、よりによって仕事の携帯にかけてくるかね。


「俺、今仕事中だから後から掛け直すってか、プライベートの携帯にかけてこいよ」

『あほぅ!お前の携帯1週間前から留守電しか相手してくれてねぇわ!俺だって常識弁えてこの1週間毎日向こうの携帯にかけてたわ!』


山近の怒声に、しまったと思う。最近営業周りが忙しくてプライベートの携帯家に置きっぱなしにしていたのを忘れていた。


「あー、悪い。今忙しくてさ」

『そうなんだろうよ。春から係長だっけか?お忙しい樫くんに、なかなか連絡がつかないって暇な俺が伝書鳩扱い食らったけどな』

「あ?」

『高校の同窓会!出欠締め切り明日までな!』


山近の方にもこちらの騒音が聞こえているのだろうか、大きな声が携帯から飛び出てくる。

けれどその問いかけに俺はすぐには答えられなかった。

聞こえていた。十分な程。

だけど……。
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