今宵は遣らずの雨

◇第二話◇


(はかま)姿の男がはっとしたように振り返った。

小夜里と同じ年頃の、二十半ばの引き締まった顔つきがあらわれる。

男は五尺七寸を越えるすらりとした上背(うわぜい)だったので、五尺しかない小柄な小夜里は、番傘を持つ腕を伸ばさねばならなかった。

男と目が合った。

小夜里は慌てて目を伏せた。

「……かたじけない」

男は頭を心持ち下げて、小夜里の傘に入ってきた。

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